駅前宗教勧誘

一ヶ月ほど前のこと。駅を降りてすぐ、自分と歳の近い女性に声をかけられた。

 

宗教勧誘かな?何かの取材かな?

「今若い方に意識調査を行なっているのですが、お時間ありますか?」

時間はあるな

ー「あ、大丈夫です」

 

その女の人はジーンズにジャケットを羽織り、メガネをかけ、親しみやすい雰囲気のある印象だった。

「お姉さんは学生さん?」

ー「はい、大学生です」

 

「何を学んでいるんですか?」

ー「美術大学で、芸術のこととか、服のこととか」

 

「この近くに住んでいるの?」

ー「はい、去年の春にひとり暮らしを始めて。お姉さんもこの近くですか?」

「そうですね、実家がこの近くです」

 

「彼氏さんは?」

ん?

ー「いえ、いないです」

 

「趣味はなんですか?」

ー「映画を観たり、料理をしたり、夜の街を歩いたり、ですかね、、」

「夜の街を。この辺りをですか?」

ー「この辺りも好きですけど、もっと都心の方が好みです」

「ハァ、珍しい趣味をお持ちですね」

ー「どうやらそうみたいですね」

 

「自分の長所ってなんだと思います?」

ー「忘れっぽいところですかね。良くも悪くも」

 

「では今ひとり暮らしとかをされていますが、生活の満足度を100点満点で表すとしたら、何点ですか?」

最近楽しいからな、

ー「んー95点」

「なかなかな高得点が出ましたね!今まで聞いてきた中で一番かも」

ー「あ、そんなもんなんですね」

 

「最近何かおもしろいことってありました?」

大喜利なのかなこれ

ー「家の近くに、よく行くコンビニがあるんです。そこにいつ行ってもいるなぁっていうお兄さんが3人くらい働いていて。で、この前夜の9時くらいにそのコンビニの前を通りかかったら、ちょうどシフトの終わったらしきお兄さんがふたり、裏から自転車に乗って出てくるところだったんです。制服じゃなくて白いTシャツ姿の。ふたりでじゃあなって手を振って、別々の方向に自転車を漕いで行きました。その光景を見れたのがなんだか嬉しくて。心踊りました」

「…お姉さんは小さいことをおもしろがるんですね」

ー「確かに。満たされやすいんだと思います」

 

「お姉さんの将来の夢は?」

ー「将来のことはわかんないですけど、今興味があって知りたいのは映画美術と衣装のことです」

お姉さんはあまり映画を観ないと言っていた。

 

「では最後に、お姉さんにとって一番大切なものはなんですか?」

この質問の答えはなんだか照れるので自分の中に収めておこうと。

 

とまあここまで矢継ぎ早の質問攻めが続いたところで、お姉さんが自分の話もして良いですか、と聞いてきた。そうそう、それが聞きたかったの。

 

お姉さんはやっぱり宗教の人らしかったです。その宗教の集会があって、自分はそこに行っていろいろなもやもやが吹っ切れたんだと教えてくれました。こんどその集会がまたあって、重鎮の方々も来るからお姉さんもぜひどうですか?という話でした。

 

「お姉さんの宗教では、死んだら意識はどうなるんですか?」

宗教について私が一番気になる質問を投げかけてみた。

「死後には死後の世界があります。こんどの集会に行けばもっとわかりやすく教えてもらえるはずですよ…」

あまり腑に落ちた答えはもらえなかった。

「いろいろお話しできて楽しかったけど、今の自分は宗教を求めてはいないので、集会には行かないです。お姉さんも頑張ってね」

 

突然出会ったお姉さんに根掘り葉掘り訊かれるのはなんだか非日常的な体験で、それを与えてくれて私はとても楽しかったので、冷たく突き放して去りたくはないなと思った。あくまでありがとうの気持ちで話を終わらせたつもりだったけど、お姉さんはどう思ったかな?

 

残暑の続く日々だったけど、この日は夕方から急に冷え込んだ。長いこと立ち話をしていたせいで体は芯から冷えていた。

帰ってお酒を飲みながらつくづく思ったのは、自分宗教に向いていないな、ということでした。