香織

 

和田香織

 

これは私の名前ではない。

私が汚職をする時に、登場する人物だ。

 

ある人から仕事をもらうと、もれなくこの汚職がついてくる。購入した衣類を、一度だけ試着して返品するという作業だ。誰かを傷つけたり搾取しているわけではないから法では捌けないだろうし、グレーゾーンであるとは思う。しかしどうしたって不毛に感じてしまうし、店員さんの目を見て会話をできない。私はこの作業が嫌いだった。

 

返品が完了した後、店舗控えのレシートの裏に署名を求められる。本名じゃなくていい、と言われていたので私は咄嗟に出てきた"香織"という名を書いた。苗字は罪悪感からなのか、本名を選んだ。和田香織。

それからこの作業を任される時は決まってこの名を書いてしまう。本能的に書きながら思う。誰なんだろう。

 

いつかどこかの和田香織さんに出会った時、私はきっと鳥肌が立つような気がしている。