香織

和田香織 これは私の名前ではない。 私が汚職をする時に、登場する人物だ。 ある人から仕事をもらうと、もれなくこの汚職がついてくる。購入した衣類を、一度だけ試着して返品するという作業だ。誰かを傷つけたり搾取しているわけではないから法では捌けない…

surround

最近心を揺さぶられたこと。 小さなことでも、その瞬間が愛おしくて、なるべく多くを刻みつけたい。 そう思って細かなメモをたくさん取っていた10代。それはまるで秘密裏にこの世界に散らばっている記号を、見つけては拾い集めるような、日常的なひとり遊び…

千葉は灰色

訪れた場所のイメージに、色をつけてみる。 京都は萌黄色、山吹色、こげ茶の木の色。 千葉は、灰色。灰色の砂利、灰色の海。

涙くん

この閉塞的な日々に、否が応でも自分というものが浮き彫りになってくる。 規則的な毎日がもたらすそれが怖いから、わたしはいつもスケジュール帳を移動と行動で埋めていた。 ひとりでいると自分は、勝手に深く落ちていってしまう。10歳の時にソファに沈んで…

favorite hates

茄子の味噌炒めをおかずに、白いご飯とビールを一缶開けて晩ご飯とした。 溝口健二の『夜の女』をパソコンで観ながら。 食事が終わって、まだ映画は続いていたから、電気を消してそのまま続けた。 開け放っていた窓からは、夏の夜の風が吹いた。 わたしがこ…

ユーレイヤーライ

ここ三日間、店員さん以外の人と言葉を交わさなかった。 発した言葉は、 「84円切手ください。」 「袋いらないです。」 「ウィンナーコーヒーを。」 「ごちそうさまです。」 「ありがとうございます。」 こんなもんだった。 しかし、それ以外の時間が静か…

性差

自分に女という機能が備わっていることが、時に悲しく、不必要に感じる。 小学生の頃、自分の体は平坦なままであれと願ったし、見ず知らずの人間から女であるという判断だけで触られたり、撮られたり、そういうことは懲り懲りだった。被害者の意識を持たねば…

ひとり/ふたり

あ、あの人私の方を見ているな ということを誰かの目を見ながら思った時、その瞬間ふたりは、見つめ合っている。 そのことに気がついた保育園時代、両想いという奇跡をすこし身近に感じた。案外認識するより前に、その状態は訪れていたりするのかも知れない…

とうめい

涙と、愛というものは、強く結びついている。 すべてに愛で応えようとすると、毎日がぼろぼろになる。 止まらない涙は、溢れた愛の副産物なのかも知れない。 涙は自分の頬を伝うから、優しくなぞってくれるから、その感覚につい身を委ねてしまう。 未来に期…

音のない会話

もう二年半も前のことだ。 ようやく陽射しに温度が感じられるようになった季節。代官山。平日。 軽やかなビジネス人たちがまばらに通勤する時間帯。 わたしはカフェの開店準備をしながら、ふと大きな窓ガラスの外を見た。 すらっとした二人の女性が、坂にな…

シン・ニンゲン

誕生日も、新年も、新学期も、新年号も、本当は何も変わらない。だって日々は地続きだ。 ただ、飛び越える意識を持つかどうか。 something newを求めるか否か。 “vision を持ちなさい” 下北沢の魔女は中学生の私にそう言った。10年後、20年後の自分がどのよ…

緑喪失記

あまりにも、突然だった。 こういうことがあると、何かに安心を覚えることがほんとうにこわくなる。 その度、心を空っぽにする。 空っぽのまんま、涙が流れる。流れるがまま、抑えることができない。 日々の無意識下に確かにあった平穏な一部が、目の前で、…

ふたごの気配

子どものふたごが、ふたり一緒にベビーカーから顔を出していたり、同じ服を着て横並びに歩いていたりする光景は良く目にするけれど、年齢層が上がるにつれ、ふたごが揃って街を歩く姿を見かける頻度は少ない。 中華街で柱にもたれて肉まんを食べていた。 す…

深夜のブランコ、真夏の熱帯魚

夏の夜が恋しい。 あの光るうちわをはやく携えたい。 白いワンピースに空気を孕ませて、軽やかに夜道を歩きたい。 暑さでどうにも寝付けない夜、ブランコの揺れに身を預けたい。 ちゃぶ台に上がった冷やし中華を愛でたい。 小さな氷を舐めたまま畳に寝転がり…

丘の上 陽のあたる部屋

The VaselinesのSon of a Gun 最近はカヒミカリィのこの曲のカバーをずっと聴いてる。 キュートがあり余っている! Son of a Gun Swing swing up and downTurn turn turn aroundRound round around and about andOver againGun gun son of a gunYou are the …

帰れない二人

彼は動物的で、詩的で、あたたかな血の通う人。 わたしにとっては、優しく拾って包んでくれるスーパーマンでもあり、同じ星からやってきた同胞のような気持ちも抱く。 彼とは異性である以前に、人間として、出会えたことがとても嬉しい。 午前四時に家を出て…

とある行為の目撃者

四年生になった。 八時半 久々 早朝の西武国分寺線。 向かいの椅子のぎりぎりひとり分空いた隙間に、大きな体をねじ込んでいるひとがいたから注目した。 彼は座るやいなや、暖かそうなフリースを脱ぎ、膝に丸めて置き、手に持っていた750mlペットボトルのコ…

靄靄

高校生の時、愛を撒くのが怖くなかった。 減るものだという意識も無かったし、撒いたら撒いたで反響があるのも感じていたから。 それがどうだ。21歳の自分はひとりの人間を愛することをこんなにも恐れてる。それがはね返されたとき、自分が繕いようもないほ…

シベリア

しみずやのおじいちゃんが、きのうフランスパンを焦がしたらしい。あれほどベテランで、毎日毎日パンを焼いていても、うっかりすることがあるんだね。その話を耳にしたわたしはなんだかすごくほっとした。 わたしの前に並んでいたマダムが、シベリヤちょうだ…

ばったり三昧

湛えての上映を終えた次の日。 T氏のお誘いを受けて、川合さんと奇奇さんとジブリ美術館に行った。宮崎駿監督が二年間かけた15分間のCGアニメーション、毛虫のボロを見た。心くすぐられる、とってもキュートなボロ。ふざけたタモリさんの声だけの音響。小さ…

ラムネの顔

暮れのキャットストリートは誰もいない。 渋谷駅の始発は、待ち人がたくさんいる。 きょうはとりわけ、息が白い。 総武線の始発まで、あと12分。 10歳の時、遺書の内容を考えることでしか、抜け道を見出せなかった女の子は、今こうして、逃走癖を発揮するこ…

星の降った夜

おばあちゃんが息を引き取った。 ふたご座流星群がやってきた夜だった。 マザリーノは「息を引き取る」とその表現を噛みしめるように小さくもう一度呟いていた。 わたしはまた死に目に立ち会うことができなかった。ビバの時に続いて。まただ、と瞬間肩を落と…

銀の指環

またあいつに振り回された。逃 走 癖。 幸せを溜め込む容器が小さいのかな。なんだか人を好きになるのが怖い。愛されてると感じることが怖い。いつか壊れてしまうのが怖い。 贅沢病なんだろう。でも、自分には大きすぎるんだ。こんなに好きな人たちに囲まれ…

魔女修行

あー、ハッピーだ。 ハッピーが余って道玄坂からル・シネマ、ユーロスペース、アップリンクを通ってイメージフォーラム、からの結局戻ってシネマヴェーラ帰還。という徒労すぎる渋谷循環をしてしまった。 チャーミングで魔女のようなI氏と、大好きなT氏。ふ…

文化の日

今日は何が何でも予定を入れぬよう気を遣ってきた日。 神保町で古本まつりが開かれる季節だ。マザリーノサンドロヴィッチの手伝いで昼からウロウロしてたのは、去年のことだったっけか? 神保町映画祭の手伝いをしていたのは一昨年のことだ。 今年は特に用は…

ハロウィンに風邪をひいてしまう人

今日は10月最後の日。 高校時代はこの日はもうお祭り騒ぎで、原宿のバイト先に仮装した友たちがやって来たり、予備校で慎ましく仮装をしてから渋谷に繰り出したり、街全体がお祭りムードだと思ってた。 大学に入ってからは芸祭といつも被っていたから、それ…

VERMEER

真珠の耳飾りの娘はいなかった。首飾りの娘はいた。上野の森美術館。マザリーノサンドロヴィッチと、17時からの回。 優しい、柔らかい絵だった。フェルメールの絵は8点だけだったけど、その前に40点ほど、同時代のオランダ画家たちの絵があった。 フェルメー…

Brighton

今年の3月下旬、イギリスのブライトンに留学中の友を訪ねた。高校以来のベストフレンド。 この街の魅力は海辺にある小さな遊園地が何より象徴している。人々はなんとなく坂道を下って行く。降りて行けば、街のシンボルである遊園地に辿り着く。海には人を惹…

サリンジャーも基次郎も、きっとよく歩く

この季節は決まって心がもやもやする。若さのエネルギーを間に受けて、自分の体なんてぺしゃと潰されてしまう。あちらこちらで事件が巻き起こっていて、自分はそれを垣間みようとしてしまうから、栄養過多でへとへとだ。 これが刺激、なんだろうか。 たしか…

旅行

ぼくらが旅に出る理由、という歌を作ったのは小沢健二。私もよく旅に出てしまうし、その度に考える。なぜ、旅に出たいと思うんだろう。 私の結論はいつも “さよならをするため” かな、というところに落ち着く。 旅には終わりがあるから、物理的な隔たりによ…