音のない会話

 

 

もう二年半も前のことだ。

ようやく陽射しに温度が感じられるようになった季節。代官山。平日。

軽やかなビジネス人たちがまばらに通勤する時間帯。

わたしはカフェの開店準備をしながら、ふと大きな窓ガラスの外を見た。

 

すらっとした二人の女性が、坂になっている通りの道をとんとん下りながら、話に花を咲かせていた。

表情も豊かに、軽やかに歩いていた。

 

すべてが、手話による会話だった。

 

朝の光がきらきらと道に反射し、スクリーンのようなガラス越しにうつるふたりを、なぜだか時折思い出す。