星の降った夜

 

おばあちゃんが息を引き取った。

ふたご座流星群がやってきた夜だった。

 

マザリーノは「息を引き取る」とその表現を噛みしめるように小さくもう一度呟いていた。

わたしはまた死に目に立ち会うことができなかった。ビバの時に続いて。まただ、と瞬間肩を落とした。起き抜けマザリーノからの「電話ください」というメッセージで少し察した。そのメッセージに目は覚めたけど、後回しにしたくって画面を切った。また布団に潜って、昨日の幸せだった時間に想いを馳せた。寝起きの頭には昨日のあたたかな記憶と、先延ばしにした良くない知らせの予兆とが入り混じって、冬の灰の空みたいだった。

あまり心地良くない一時間の睡眠を経てやっと体を起こし、マザリーノに電話をかけた。良くない知らせの予兆はあっという間に現実になった。あーーあ、なんでわたしはここにいるんだろう。昨日の夜のマザリーノからの電話で、雲行きを察していれば、その場でタクシーに乗ることだったできたのに。

…いや違う。昨夜はただただ自分の幸せににやけていて、あたたかい布団にもぐりたくて、そんな選択肢実際はなかった。

偽善、という生温かい液体に体を包みこまれたようで気持ちが悪かった。

なんで呼んでくれなかったのか、とマザリーノを責める気持ちも湧いてきた。でもすぐ、人のせいにすることの無意味さに気がついて自分を責めた。結局そばにいなかったのは事実だ。おばあちゃんの息がどんどん細くなっている時、マザリーノは彼女のそばにいて、自分は自分の幸せな時間に酔っていた。

選んでいたのはとっくのとうに自分だった。

 

坂戸まで電車で向かった。

途中人身事故があって志木で一時間ほど足止めを食らった。電車の来ないホームで涙がどんどん出てきた。多分、風邪をひいた自分を病院に連れてこうとしてくれたおばあちゃんの横で、ホームにもかかわらずわんわん泣いてた、っていう昔の話を困ったようにするおばあちゃんを思い出していた。

保育園時代のその時の光景、微かに覚えている。なぜだか俯瞰で、自分とおばあちゃんが手をつないでいる。そんな画。

 

冬の太陽は強く斜めに射してきて、冷たい風の中、顔だけはずっと熱かった。

 

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