銀の指環

 

またあいつに振り回された。逃 走 癖。

幸せを溜め込む容器が小さいのかな。なんだか人を好きになるのが怖い。愛されてると感じることが怖い。いつか壊れてしまうのが怖い。

贅沢病なんだろう。でも、自分には大きすぎるんだ。こんなに好きな人たちに囲まれて、夜な夜なお酒を飲んだり、朝の通勤の人たちに逆らって午前7時の白い街をフラフラ歩いたり。

家に帰って全裸になってシャワーを浴びて、タオルで体を拭いていたら、涙が出た。嗚咽も混じった、声を出して泣いていた。そのまま髪を乾かして、布団に入って眠った。

昼になって起きたら、一瞬切ない気持ちは置いてけぼりで、ぼんやりと幸せな感情だけが渦巻いていた。けど、すぐに虚無はやってきた。ああ、もうしばらくは会ったらいけない、勝手にそう思って悲しくなった。冷たい水で顔を洗って、昨日作ったトマトスープを温めて、パンを焼いて、12時ごろ朝昼兼ねたごはんを食べた。デザートに、ルビーグレープフルーツの半身に砂糖をまぶして食べた。T君から連絡が来た。映画館に加瀬亮がいたと。なんで連絡するの、消えようとしているのに、と思う反面、なんだか安心している自分もいた。確実に。

やめてほしい。心が弄ばれて、ずっと眠ってしまいたい気持ちになる。

昨日も行き着いた、ゴールデン街のあのお店。マスターが黒いスーツ姿だった。細身のネクタイの色も、黒。用があった、って言っていたけど、お葬式かな…。

いつもラジオみたいなスピーカーから昭和歌謡が小さく流れてる。わたしと監督はそれに小さく反応したりする。帰り際、チューリップの銀の指環が流れた。残念ながらマスターも監督も知らないみたいだったけど、わたしはなんだか嬉しくなった。あぁ、その嬉しい気持ちのままタクシーで帰ってしまえば良かった。そしたら朝、逃げてしまわなくて済んだのにな。去り際、反省。

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